目黒不動尊近くの林試の森公園を歩いている。
私は此処のひんやりと湿った空気が好きだ。
田舎から東京に上京し、会社の寮を職場に合わせながら転々とした。
社会人二年目となり、初めてアパートを借りた場所が目黒線の不動前だった。
何故不動前に決めたかは理由も無く、職場に近ければ良かった。
ただそれだけである。
不動前に住み始めたのは4月の春だ。
近隣にあるかむろ坂が桜のトンネルとなり、散った花びらが歩道を埋め、
その上を歩いたのは感動した。
東京に来て初めて良かったと思える出来事である。
私の実家は鹿児島の桜島近くにあり、海と山に囲まれ温泉があるのは当たり前でした。
このせいか自然や観光地に行くという興味は私の中で育たなかった。
しかし、20代前半まで過ごしたこの環境は私の血と肉になっているらしく、
環境が逆行した生活から、自身が気付かぬ内にとりわけ緑がある所を求めていた。
私は思う。
誰もが幼年期に過ごした環境から感性を育み、
好みと今後というものに対して直感的行動の一つとなるのではないだろうか。
たまたま不動前に住み、
近隣にかむろ坂~目黒不動尊~林試の森と、日を追うごとに気づきながら、
此処には歴史と何より緑があるという事に居心地の良さを感じた。
あーー話しが脱線した。悪い癖。
しょぼくれた猫背な私が公園内を歩いていると、
私の目の前で自転車に乗った少年がペダルを踏み外し寄ろけながら転んだ。
私は「大丈夫か?」と確認し、少年と自転車を起こした。
少年は「大丈夫です。」と私に返したが、血は出てないが膝が擦りむけていた。
少年は恥ずかしそうに「ありがとうございます。」と言い残し自転車で走り去った。
私が幼い時、ちゃんと受け答えできたかなと思い出そうとするが思い出せない。
多分、そこに重きを置いていないのであろう。
遠目からさっきの少年が木の側で止まり、
擦りむけたであろう膝を見ているのが見えた。
そして、そこに散歩している犬連れのお婆さんが近寄り心配そうに声をかけている。